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書き出し「1メートル50センチ」

AuDee CONNECT・水曜日【蓮見翔(ダウ90000)】
書き出し「1メートル50センチ」
「1メートル50センチ」

書き出し大賞:R.N. ミュータントギャートルズ
作:蓮見翔
出演:忽那あやか

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身体測定の日、私は初めて学校をサボった。
中2で止まった身長よりも海が見たい。そう思ったからだ。

高校3年生になって、周りは受験に色めきだっている。やだなぁと言いながらも、自分の人生に訪れた今後の人生に多分大きく関わるであろうイベントに皆少なからずテンションが上がっているのだろう。かくいう私も、身長も伸びなくなった変化のない自分に少し飽きがきていたところではあったから、みんなより少し小さめではあるけどはしゃいではいた。高校二年生の三学期を高三の0学期と言うタイプの学校なので、部活も引退して、まぁそろそろ大人になろうよみたいな空気が教室に蔓延していた。私は何になるんだろう。多分もう背は伸びないし、顔つきも大きく変わることはない。ここから変わるのは肩書と環境だけで、それらを全部好きになれるとは限らないんだろう。

自分の今の身長は好きだ。大きくも小さくもないから。横にいる人を選べば大きくも小さくもなれる。周りに比べてどうかくらいでいい。周りと比べられたくない人は周りに負けない自信がある人で、私はそうはなれないから、その都度変わるくらいの評価をされたまま生きていたい。そんなことを考えて小田急線に乗っていたら、気づいたら江ノ島についていた。

電車を降りて少し歩くと、潮の香りがしてきて、なんだか今日のことって大人になっても覚えてる気がして恥ずかしくなってきた。今日のことを思い出した時、私は戻りたくなるのか大人になったことを喜ぶのか今はわからないけど、身長は158のままなんだなぁと思った。結婚したとしても158だし、車の免許を取るときも158だ。ワンルームで初めての一人暮らしをするときも158だし、狭いキッチンで使い勝手のいいゴミ箱を探すときも158だ。結局ビニールをぶら下げるフックだけにするときも158だし、そのためにコンビニで袋をもらいたいだけなのに店員さんに「この量で?」が含まれた「3円かかりますが」を言われるときも私は158なんだ。
私が見る世界はこれ以上でもこれ以下でもない。諦めなのか期待なのかわからない感情になりながら海を眺めてた。少し離れたところで、ハイヒールを手に持って浜辺を歩いている女の人が見える。身長が固定されてだいぶ経っているのに、無邪気さが残っているのが羨ましい。抗うためのハイヒールなのかとも思ったけど、じゃあ脱がないで歩くはずだ。大人になっても見える世界がコロコロ変わる人はいるんだろう。

本当は江ノ電に乗ってみたかったけど、これ以上知らない駅の名前を聞く寂しさに耐えれなくて帰ることにした。家に帰ると母親がカバンの砂にめざとく気付き、観念してすべて話すと特に怒られることもなく夕飯を出してくれた。心配されるほど大冒険じゃなかった事実に少し恥ずかしくなって、江ノ電にも乗ったことにしてしまった。しても恥ずかしくないうちに、背伸びしておこうと思った。

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毎週水曜日26時~
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蓮見翔のAuDee CONNECT

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