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「帆世雄一のいっちょ噛み太朗」#6 親の選択

THE G.O.A.T.
「帆世雄一のいっちょ噛み太朗」#6 親の選択

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 先日三歳の誕生日を迎えた長女は、自動販売機大好きガールである。
 
 自販機を見つけては、ボタンを押して次の自販機へと目標を変える。誕生日プレゼントのリクエストは、シルバニアファミリーでもアンパンマンでもポケモンでもなく、自販機のおもちゃという徹底ぶり。
 
 そんな彼女が先日、事件を起こした。
 
 
 保育園の帰り道、妻と手を繋いで歩いていた彼女。ひとつの自販機につき、一回だけボタンを押していいという大変に厳格なルールのもと、毎日厳選してどれを押そうか考えて帰る長女は、その日も自販機の前で熟考していた。僕は次女を抱っこしながら「オレンジジュースがあるねー」などとイチャイチャ遊んでいたのだが、長女の前の自販機から急にガシャン!と聞き馴染みのある落下音が。
 
 妻が特別になにか買ってあげたのかしら?と目線をやると、妻のスマホを自販機の支払いのあたりにかざして、ドヤ顔の長女の姿が目に飛び込んできたではないか!
 
 
 ……え?!なぜ?!混乱しながら妻に尋ねると、ポケットからスマホを抜き取り瞬く間に自販機にタッチして、勝手にジュースを買ったというのだ。妻は少し怒気をはらんだ声で長女の名前を呼んだ。こりゃ叱らにゃなるまいと一瞬で判断したようだった。
 
 
刹那、僕の脳裏には自身が四歳になったある夏の記憶が蘇ってきた。
 
 仮面ライダーが大好きで、レンタルビデオショップでVHSを借りてもらい、毎日飽きもせず延々ライダーを観ていた僕。ある日、なぜか家族の誰よりも早く目が覚め退屈していると、天啓が降りてきた。
 
 そうだ、自分でライダーを借りてくればいいじゃないか。
 
 いつも母に連れて行ってもらい手間をかけているのだから、一人で行けばみんな喜んでくれるだろうと、幼児の謎ロジックをかました僕は、手早く着替えを済ますと、キッチンの椅子にかかっていた赤いハンドバッグを手に取った。この中には母が買物をする際に使う食費や、ビデオショップの会員証など一切が入っているのだ。お気に入りの麦わら帽子を被り、いつも母と出かけるルートをなぞってレンタルビデオショップへ。よく吟味して、初代仮面ライダーが宿敵・地獄大使と戦う回を選びレジへ。今になって思えば、ショップの店員さんも、この子一人?大丈夫?良い回選んでるセンス良いなあ、などあれこれ逡巡したと思うのだが、すんなり貸してくれて、僕は意気揚々と帰途についた。
 
 実家が近づくにつれ、得体のしれない不安が芽生えてきた。
 
 あれ?これもしかしたら叱られるんじゃないか?
 
 なんか分からんが、叱られるかも!やらかしちゃったかも!理屈はわからないが、なんとなく不安を抱きながら帰宅すると、母がとんでもない勢いで走ってくる。僕の顔を見ると顔を真っ赤にして泣きそうなような、怒っているような表情をしていたのをよく覚えている。
 
あ、こりゃあかんやつだ。一瞬で察し、落ちてくる雷に備えて、身を強張らせると、奥から父の声が聞こえた。
「雄一、自分で借りてこれたのか?偉いなあ!!」
 
 あろうことか、父はのんきに笑顔で褒めちぎったのだ。狐につままれたような面持ちで佇む僕に、父はどうやって借りたのか、怖くなかったのかあれこれ聞いてくれた。答えている内に、こわばっていた心はほぐれ、一人で買い物を成し遂げたという達成感が満ちていったのを覚えている。次第に調子に乗ってきた僕に「一人で勝手に買い物に行ったらダメだぞ。泥棒と同じだからな」としっかり釘を刺してくれた父だった。
 
 万事その調子で僕に接してくれた両親のお陰で、自分は臆することなく何にでもトライできるタイプの人間になったと感じる。
 さて、父となった自分は同じような状況を前にしてどうするべきか。
 
「えーー!自分で買ったの?!すごいじゃん!パパとママがスマホで買ってるの見て覚えたの?」大げさに驚いてみせると、長女は得意げに「うん!」と答えはにかんだ。しばらく話したあとに注意するとすんなり受け止めて、ママにごめんなさいもできた長女の姿に、昔の自分を重ねた夕暮れ時だった。
 
 それから数日後。「パパのお仕事のを洗ってあげようと思った」などと供述する我が子が、びしょ濡れのキーボードを抱えてニヤケ顔を向けている。愛する娘よ、今だけはその顔憎らしいぞ。

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