あきた労務管理事務所
1.人材の定着率を分ける社労士目線での「意外な共通点」
現代の採用市場において、「ホワイト企業」はもはや当たり前。
しかし、求人票に魅力的な条件を並べても、早期離職を招くケースは後を執りません。
新卒者の本音: 「ホワイトだと思って入ったのに、直属の上司に相談しにくい」「現場の空気が重い」
本質的な課題: 制度の形骸化と実態のギャップ、つまり「入社後のミスマッチ」
29年のキャリアを持つ社会保険労務士・穐田恒雄氏は、
数多くの企業の浮沈を見てきた経験から、高い定着率を誇る職場には
「制度の運用」と「人間関係」にまつわる意外な共通点があると説きます。
2.「育休=迷惑」を「感謝」に変える「フォロー手当」
育休の取得が進まない最大の要因は、残されたメンバーへの業務負荷と、
そこから生じる「気まずさ」です。
この問題を構造的に解決しているのが、「岡山子育てしやすい職場アワード」受賞企業などに
見られる「フォロー手当」の仕組みです。
【仕組みの解説】
5人の部署で1人が育休を取得した場合、会社側は浮いたコスト(給与や社会保険料など)の
何割かを、業務負荷が増える残りの4人に「手当」として還元します。
【不満をメリットに転換】
「ゆっくり休んでよ。私らちょっと給料増えるから」
制度の不備を現場に押し付けず、仕組みによって周囲からこの言葉が
自然に掛けられる環境を作ります。
育休を「周囲への迷惑」から「周囲への貢献」へと変える、組織文化の劇的な改善アプローチです。
3.10万円の補助金と「一通の感想文」が、人間関係を修復する
同じくアワードで高く評価されたのが、金銭的支援と心理的ケアを融合させたユニークな
取り組みです。
育休取得者に「出産補助金」として10万円を支給する際、
ある企業はユニークな「条件」を課しています。
課された条件: 「残ったメンバーへの感謝を綴った感想文を提出すること」
単に現金を給付するだけでなく、あえて言葉による「感謝の見える化」を求める。
これにより、休む側の罪悪感を払拭し、送り出す側も「サポートが正当に認められている」と
実感できます。
経営者が「職場の人間関係こそが最大の資産である」という思想を具現化したカタチです。
4.働き方改革の「次」:育休の取りやすさが企業の命運を握る
2019年からの働き方改革により、休日数の増加や残業削減は今やどの企業も主張する
ようになりました。
穐田氏は「求人票で休日数を謳っても、もはやインパクトがない」と指摘します。
現在、若い世代が最も注視しているのは「育児休業の取りやすさ」です。
これからの企業が目指すべき指針として、同アワードでも重視される「5つの客観的視点」が
挙げられます。
| 視点 | 目指すべき指針 |
| 他事業者へのお手本 | 他社が模倣できる先駆的なモデルであるか |
| 先進性・独創性 | 独自の工夫や新しい視点があるか |
| 継続性・実行性 | 一過性ではなく、文化として定着しているか |
| 気運醸成への貢献 | 職場全体の雰囲気をポジティブに変えているか |
| 客観的数値 | 有給取得率など、データに基づいた実績が伴っているか |
5.最も強力な福利厚生は「上司の機嫌」である
組織の健康度を測る究極の内部指標は、目に見えない部分にあります。
穐田氏が自身の事務所で最も大切にしているのは、
「とにかく機嫌良さそうに仕事をすること」という極めてシンプルなマインドセットです。
どんなに立派な制度があっても、トップや上司の機嫌が悪いだけで、
部下は「質問しづらい」「休みを言い出せない」という心理的安全性の欠如に陥ります。
「辞める理由も人間関係ですが、残る理由もまた人間関係なのです」
「あの先輩が丁寧に教えてくれるから」「この職場は相談しやすいから」という理由で、
人は組織に留まります。
上司が機嫌良く振る舞い、誰もが話しかけやすい空気を作ることは、
コストをかけずに明日から実践できる、最も強力な人事戦略です。
6. 昨日までの「すいません」を、今日からの「お疲れ様」に
本当の意味での職場改革とは、制度という「箱」を作ることではなく、
その中で交わされる「言葉」と「空気」をデザインすることです。
× 従来の職場: 休み明けに「昨日はすいませんでした」と肩身の狭い思いで出社する
〇 理想の職場: 周囲が「昨日はお疲れ様」と労いの言葉をかけられる
そんな「使う人の目線」に立った温かい循環がある職場こそが、
これからの時代に選ばれ続ける「企業」ではないでしょうか。
今日、あなたは職場で「話しかけやすい機嫌の良さ」を保てていますか?